>宮部みゆき 「日暮らし(上)」 ★★★★★ 宮部みゆき 「日暮らし(中)」 ★★★★★ 宮部みゆき 「日暮らし(下)」 ★★★★★ >浅田次郎 「天切り松闇がたり3 初湯千両」 ★★★★★ ラオスに5冊持っていき、帰国前にそのうちの4冊を読んだ。ほとんどは行き帰りの飛行機の中である。ホテルの部屋は灯りが十分ではなく、読むには読めたが目が疲れて、10ページほどで諦めた。一方、飛行機の中では他にやることがない。寝ているか、本を読んでいるか、どちらかだ。ハノイでのトランジット時間に読めれば良かったのだが、その時間帯はみんなで飲んで盛り上がっていた。 「日暮らし」は時代小説である。ぼんくら同心の井筒平四郎と、いずれは養子に迎えようと思っている弓之助、その友だちの「おでこ」らが、前作「ぼんくら」で提示された因縁を解き明かしていくという筋書きだが、読み始めの第1章「おまんま」と第2章「嫌いの虫」を読んだら、これは短編小説集だと思ったことであった。登場人物がまったく重ならないし、ストーリーにも全然共通点がない。まさか、長編の中の1章1章とは思えなかったのである。 この辺が宮部みゆきの憎いところだ。一筋縄ではいかんのである。副業でゲームのストーリー作りをやっていたというだけあって、重層的なストーリーの組み立てが、時代小説に限らず、宮部の一つの特徴になっている。読者は、全編にわたって揺さぶられ、最後の最後になって、やっとその重層構造が一つにまとまる解放感を味わう。稀代稀な才能と言うべきだろう。 最近ハマっている宇江佐真理も時代小説だが、この点で宮部とは対極をなす。宇江佐のほうは、ストーリー展開にあまり波乱を作らない。ページをめくるたびに、閉じたほうのページの間にボク自身が少しずつ溶け出して、染み込んでいくようなしっとり感を味わう。読み終わった時には、ボクはすでに、本の中に移住させられてしまっている、そんな感じだ。描かれた世界に住んでいるような気分になってしまうのである。 どちらがどちらとは言えない。小説としての「面白さ」では宮部に軍配が上がるのだろうが、味わい深さという点では宇江佐だとボクは思う。まあ、いずれにしろ、読んで損はない、面白い小説であった。 浅田次郎については言うことはない。ボクに言わせれば、現在時点での最高の小説巧者が浅田である。この「天切り松闇がたり」シリーズは、江戸っ子浅田の力量満開シリーズで、しかも、版を重ねるごとにプロットの面白さが際立ってくる点、おそらく、作者自身も乗りに乗って筆を進めていることが伺われる傑作である。 主人公はドロボー。しかも、捕まって牢屋に入っている。老人である。にも関わらず、他の受刑者や、のみならず看守、刑務所長までが彼のファンなのだ。彼が「闇がたり」する、古き良き時代の悪党たちの心意気が、聞く人々を捉えるのである。 主人公天切り松の江戸弁がいい。江戸っ子浅田にしか書けないせりふだ。黒川博行の大阪弁もそうだが、方言にしか伝えられないニュアンスが小説の大きなポイントになっているという点で、小説の価値が一段も二段も高まっていると思う。
by osampo002
| 2010-12-13 12:15
| 本を読もう!
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