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10/11-10/17







佐々木譲
「疾駆する夢(上)」
★★★★★






佐々木譲
「疾駆する夢(下)」
★★★★★






佐々木譲
「廃墟に乞う」
★★★★★



 デビュー作「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞したのを手始めに、主だった文学賞はほぼ総なめした感があった佐々木譲だが、今年はその頂点を極めたというべきか、第142回直木賞の栄誉を手にすることになった。それを記念して、というのではないが、このところ、この作家の小説を立て続けに読んでいる。先週のこの3冊以外にも、これから読むストックの中に6冊入っている。いったん気に入るとしばらくのめりこむという、凝り性ならではの読み方だ。カレーを「美味しい」などと言おうものなら、1週間毎日カレーが出たのが、ガキのころの我が家だった。母親から受け継いだ性分、ということだろう。
 「疾駆する夢(上下)」は、一代で自動車メーカーを世界レベルまで育て上げた男の話である。敗戦とともに自動車整備隊から復員してきた多門大作は、焼け野原と化した本牧で、一人だけの自動車整備工場を立ち上げる。多門の夢は、かつて1年間だけ働いたことがあったフォード日本工場で培った夢、我が国でもアメリカ車並みの自動車を作ることだった。
 手始めに、あちこちからかき集めてきた部品を組み立てたオート三輪を作って売りだす。これが、戦後復興期の産業界に歓迎され、多門自動車の発展が始まる。この小説は、多門大作という、生涯をかけて夢を追い続けた快男子の物語であると同時に、日本自動車業界の戦後史でもある。
 多門、ひっくり返せばモンタ、おそらく、多門自動車のモデルはホンダである。小説中に、我が国第3位のメーカーにまで上り詰めたという下りがあることからも、そのように推測される。しかし、ホンダも本田宗一郎も登場人物として小説中に出てくるから、主人公の人物造形がフィクションであることはもとより、多門自動車がホンダであるとも断じられない。通産省が主導する自動車産業育成政策にあくまで背を向け続けたホンダを念頭に、フィクションとしての多門自動車を造形したと言えるだろう。
 とにかく面白い小説であった。佐々木譲のストーリー作りはまさに天才だと思うが、その天才を如何なく発揮した企業小説だ。

 「廃墟に乞う」が今年の直木賞受賞作品。まだ文庫化されていないため、ケチなキットくんとしては、清水の舞台から飛び降りたつもりで単行本を買った。
 ある事件をきっかけに、心に重いストレスを抱えてしまった北海道警の刑事仙道は、心の病を治療するため休職扱いとなっている。その仙道のもとに、いろいろな事件が持ち込まれる。捜査権もなく、道警の捜査の邪魔をすることもできぬ仙道だが、一般人としての立場ながら、頼まれたからには断ることができず、事件に関わっていく。
 全部で6篇の短編からなる連作小説である。それぞれで別個の事件が扱われるが、それらの事件を捜査していく中で、仙道の心の病も徐々に快方に向かう。仙道の心が傷を負うことになった原因が最後の「復帰する朝」で明かされるが、そこに至るまでの仙道の心理描写もなかなか読ませる。佐々木譲は、「警官の血」や「警察庁から来た男」、「笑う警官」など、警察小説の分野でも優れた力量を示すが、その一つの頂点がこの連作集であろうと思う。



by osampo002 | 2010-11-10 19:07 | 本を読もう!
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