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8/1 今週の書評





草薙圭一郎
「死闘!帝国機動部隊」
★★★★☆





高橋義夫
「猿屋形」
★★★★★





誉田哲也
「国境事変」
★★★★☆



 「死闘!帝国機動部隊」はいわゆる歴史シチュエーションものである。「もしXXだったら」という仮定のもと、歴史はこのように変わっていたはずだという、ご都合主義丸出しの分野だ。
 この小説では、あろうことか、神田の古本屋の主人がバイク事故に遭い、気が付いてみたら戦前の時代の山本五十六に乗り移っていたという荒唐無稽な前提で話がスタートする。この古本屋、扱っているのは戦史ばかりという専門店である。そこの主人であるから、太平洋戦争の歴史についてはめっちゃ詳しい。その知識をもってして、仮の山本五十六が連合艦隊司令長官として対米戦を指揮するわけである。帝国海軍が壊滅的な負け方をした理由が前もって分かっているわけだから、負けた原因を作らないようにすれば勝つ理屈だ。
 この手の小説の出来不出来は、歴史上の「事実」にいかに即したストーリーを構築するかにかかっている。その点、著者草薙には「優」を与えてもいいと思う。緒戦の真珠湾攻撃で米空母を補足できなかった事実が、その後の不利を招いた。ならば、米空母を発見できたことにすればいい。だがしかし、いくら前提が荒唐無稽だからといって、都合よく米空母がひょっこり出てきてくれるわけではない。発見、攻撃、撃沈に至る道筋では、歴史的「事実」を下敷きにした綿密な調査が行われなければ、小説としての価値はなくなってしまう。
 真珠湾だけではなく、小説は戦争の終結までその「事実」を基にして構築されている。前提は荒唐無稽でも、それはあくまで真の歴史と比較してのことであり、著者が提示する方向に進んだとしたら、確かに歴史は変わっていたはずだ。つまり、あり得ない話ではなく、あり得たかも知れないというぎりぎりのレベルでストーリーが組み立てられているから、小説としての面白さがあるわけである。
 ずっしりと重い、辞書ほどの厚さがある文庫本である。でも、けっこう面白くて2日で読んでしまった。後半がちょっと乗りすぎというか、あまりに都合よすぎる設定が多用されていた点、★1つ分のマイナス要因になった。
 「猿屋形(ましらやたか)」は拾った本。お田んぼ衣装を洗濯しにコインランドリーに行ったところ、そこのごみ箱に捨ててあったものである。洗濯に30分、乾燥に30分かかるから、待っている間の時間つぶしに読んだ。薄い本なので、ちょうど読み終えた。
 羽州松ヶ岡藩の城下町。歴代藩主の菩提寺にある竹林でひっそりと暮らす鬼悠市は、浮組の足軽が表の顔だが、ひとたび奏者番の命を受けると、奥山流の豪剣を使いこなす隠密の鬼と化す。その鬼悠市が関わるいくつかの事件がオムニバス風に語られる。
 著者は4回も直木賞候補となり、5回目でやっと受賞したというつわものだが、候補に挙がること自体がきわめて難関の同賞で、4回も名があげられる実力派だということであり、確かに、文章力も文句なしだし、ストーリーの構築も上手い。カバーもない裸の状態で捨ててあった文庫本だが、いい拾い物であった。
 「国境事変」は、現在映画が公開中の「武士道シックスティーン」の原作の著者だということで買ってみた本。北朝鮮の陰謀を巡り、警察庁公安部、警視庁捜査1課、対馬警察署が三つ巴になって事件を追うというストーリー。イマイチだった。

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by osampo002 | 2010-08-14 13:32 | 本を読もう!
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