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2009/08/11 TUE (No.2320)


夜の踏切







 真保裕一の新作、「栄光なき凱旋」を読み終えた。新作と言っても2006年の出版であるから、すでにその後の5作も上梓されているのだが、ハードカバーの上下2巻が文庫化されるのを待っていたのだ。先々月から文庫が出版され始め、単行本の上下2冊が上中下3冊に分冊された。毎月1冊ずつの出版ということで、3冊揃うのにも3ヶ月待ったことになる。
 ハズレのない作家である。江戸川乱歩賞、吉川英治文学新人賞、山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、新田次郎文学賞と、主だった文学賞を総なめした実力は伊達ではないのだ。
 3冊読むのに1週間もかかってしまったが、鉄塔探検に時間を取られたのと、週末のお田んぼ倶楽部が読書時間を食ったためで、作品自体は、できれば一気に読んでしまいたかったほど面白かった。
 第二次大戦中、米国に在住していた日系人は、財産を没収され強制収容所に隔離されるなど、多くの辛酸を舐めた。米国の黄色人種差別である。二世たちは米国籍であるにも関わらず自由を奪われ、謂われなき迫害を受けたわけで、その偏見に対抗すべく、多くの若者が軍に志願した。米国人であることを証明するには、それしか方法がなかったからだ。
 ロスの精肉店で働くジロー・モリタ、大手銀行に就職が決まったエリート学生のヘンリー・カワバタ、ハワイ大学の学生で、白人の婚約者がいるマット・フジワラ、主人公のこの3人が、真珠湾攻撃を境に人生の岐路を大きく変えていく。第442連隊に志願して、欧州戦線で生死の境をくぐりぬけるもの、太平洋戦線に語学兵として派遣される2人、それぞれが、日系人の名誉と勇気と、家族愛の狭間で悩みつつ、兵士という「殺人者」に変身していく。
 戦闘シーンの描写が圧巻である。まるで映画を見るように生々しい。凄惨、恐怖、死、怯堕と勇気、それらが圧倒的な臨場感をもって描かれる。単行本上巻のあとがきに野村進氏が書いているが、「作者は「プライベート・ライアン」を活字の力で乗り越えようとしたのではないか」と思えるほどである。
 第442連隊は、大戦中最も戦死率が高い部隊となった。連隊定員の実に3倍以上の死傷者を出したのである。白人部隊の弾避けとして、過酷な作戦に投入され続けたからだ。ドイツ軍に包囲されたテキサス大隊211人を救助するため、800人以上の戦傷者を出した有名なボージュの森の戦闘場面なども、迫真の筆致で語られる。
 一方、勲章の受章数でも米陸軍史上最高の部隊となったのだが、兵士たちの命を賭した奮闘にも関わらず、戦後も日本人差別は収まることがなく、日系人は長い間苦しみに喘ぐ生活を強いられた。レーガン大統領が公式に謝罪するまで、米国では、日系人兵士が示した勇気について語るのはタブーだったのである。
 実に多くの日系人兵士が死ぬ。主人公3人は生きて終戦を迎えるが、その後の運命もまた苛酷であった。感動の結末まで生き残るのは誰か、ページをめくる手に一層力がこもることであろう。













今日のプレミア版


地下道




展示作品:
通常版「地下道」
エッセイ:目がテン
今日のポイント:光のドラマ
ネット撮影会講評:ナンさんの作品
「アーチ競演」

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by osampo002 | 2009-08-12 03:56 | 本を読もう!
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