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浅田次郎
「草原からの使者・沙高楼奇譚」
★★★★★



 久しぶりの浅田次郎である。この著者の本は、ほぼ8割方網羅したと思っているのだが、本屋でたまたま読んでいない本を見つけると、無条件に手に取ってしまう。あくまでボクの個人的、かつ独断的な好みだが、ハズレ皆無の作家なのだ。
 その浅田次郎の作品について、たとえば「壬生義士伝」や「地下鉄に乗って」などの長編と、「鉄道員」や「霞町物語」などの短編、「勇気凛凛ルリの色」や「つばさよつばさ」などのエッセイを比べて、どの分野が一番優れているかという議論がある。人によって評価は様々だし、どの分野も優劣つけがたいという意見も多く、結論が出る話ではないのだが、これもあくまでボク個人の好みだけれど、やはり浅田は短編だろうと思う。短編集「鉄道員」に収められている「ラブレター」、「角筈にて」などは、日本文壇史に燦然と輝く大傑作だと思うのである。
 今回の「草原からの使者・沙高楼奇譚」もその短編集。南青山の高層ビルの屋上にあるペントハウス「沙高楼」では、わが国のいわゆる上流階級の面々が集まって、ゲストの経験談を聞くという催しが行われる。沙高楼の主人による、「今宵もみなさまがご自分の名誉のために、また、ひとつしかないお命のために、あるいは世界の平和と秩序のためにけっして口になさることができなかった貴重なご経験を、心ゆくまでお話し下さいまし。語られる方は誇張や飾りを申されますな。お聞きになった方は、夢にも他言なさいますな。あるべきようを語り、巌(いわお)のように胸に蔵(しま)うことが、この会合の掟なのです」との挨拶を受けて、ゲストの体験談が語られる。
 この短編集には、4人のゲストによる4つの奇譚が収められている。「宰相の器」、「終身名誉会員」、「草原からの使者」、「星条旗よ永遠なれ」の4篇である。それぞれは、簡単に底が割れる程度の話にすぎない。奇譚ではあるが、謎に満ちてはいないのだ。
 だが、浅田の筆は、底の浅いそれぞれの物語を、飽かず読ませる魔力に満ちている。文章が持つ魔力である。あまたいる作家の中で、浅田ほどの文章力を持つ作家をボクは知らない。大江健三郎も村上春樹も、後塵を拝らざるを得まい。
 その浅田作品だが、今年は「ハッピーリタイヤメント」と「終わらざる夏」の2つの新刊が話題を呼んでいる。本屋の新刊コーナーに行けば積み上げられているのだが、ボクは基本的に文庫化されてから買うというケチンボなので、今のところ涎を垂らして待っているというのが現状だ。まさか、浅田作品が文庫化されぬということもなかろうから、まあ、待つ期間が長いだけ、読んだ時の感動も深かろうと思って我慢の子しているのである。



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by osampo002 | 2010-11-10 14:44 | 本を読もう!
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