柴田よしき 「激流(上)」 ★★★★★ 柴田よしき 「激流(下)」 ★★★★★ 堂場瞬一 「裂壊」 ★★★★☆ 鳴海章 「微熱の街」 ★★★☆☆ 横山秀夫 「出口のない海」 ★★★★★ 1995年、「RIKO -女神(ヴィーナス)の永遠」で第15回横溝正史賞(現在の横溝正史ミステリ大賞)を受賞してデビューした女流作家柴田よしきだが、著作を読むのは「激流」が初めてである。横溝正史ミステリ大賞の受賞以来、文学賞とは縁のない作家であるから、大したことはなかろうと多寡を括っていたのだ。しかし、「激流」には参った。なかなかどうして、バカにできない筆達者である。 圭子など7人の中学生は、修学旅行でグループ行動の班を組むことになり、独自に考えたルートを観光していたのだが、途中のバスの中でメンバーの一人冬葉が失踪してしまう。誰も気づかぬうちにバスを降りてしまったらしい。冬葉は結局見つからず、なんらかの事故に巻き込まれたのか、あるいは家出だったのか、真相不明のまま20年経った。 35歳になったメンバーのところに、ある日突然「私を覚えていますか?冬葉」というメールが入る。それをきっかけに20年ぶりの対面を果たした5人(1人だけは見つからない)、雑誌編集者の圭子のほか、歌手、主婦、サラリーマン、刑事の4人の身辺に、時を同じくするように不可解な事件が起こり始める。それらの事件と冬葉の失踪に関係があるのか、小説は、それぞれの個人を追いかけつつも、その謎を次から次に読者に投げかける。上下2巻の最後の最後まで引っ張られてしまうプロットだ。 さまざまな職業につく5人の立場や、性格描写の描き方がいい。簡明な文章だが、深く読ませる筆力がある。放っておけない作家になりそうな予感を感じたことであった。 「裂壊」は、警視庁失踪課高木賢吾シリーズの第5作になる。内部査察を間近に控えたある日、室長の阿比留が突然失踪する。警察官、しかも、高木らにとっては上司に当たる女性の失踪である。失踪を表沙汰にすれば室長のみならず、課員全員の汚点になる。査察までの残された数日、高木らは極秘に捜査を進める決意を固める。 時を同じく、たまたまある女子大生の失踪がそのボーイフレンドから届け出られる。足らぬ人出をやりくりして調べてみると、室長阿比留の失踪との意外な関連が浮かび上がってきた。2つの失踪事件に繋がりはあるのか、残された時間が刻々となくなる中、高木らの奮闘は続く。 警察ものでは定評がある堂場瞬一のことであるから、当たり外れはないという確信があった。裏切られなかった。 鳴海章「微熱の街」、主人公はヤクザである。40歳を半ばを過ぎたのに、自前の組を持てない中年ヤクザ「テラマサ」は、唯一の子分である日系ブラジル人の扶利夫(フリオ)とともに、死体の後始末や取り立てなどの仕事を、命ぜられるままに遂行する日々を送っていた。そのテラマサのもとに、8歳の男の子が転がり込んでくる。それを契機にしたように、テラマサはいきなり銃撃を浴び、命を狙われることになる。半端モノのヤクザには、そんな派手な襲撃で排除される理由はない。転がり込んできた子どもとなにか関係がありそうだ。 頼まれてその子をかくまったゲイバーのタミィとその家族、テラマサが所属する組の組長までが惨殺されるに至って、テラマサは反撃に転じる。警視庁公安部外事課まで関わってくるに至って、事件は国際テロの様相さえ帯び始めるのだが、テラマサにテロ?不可解は不可解を呼ぶ。果たしてテラマサの反撃は成功するのか、ヤクザとして「男」を立てる道は、命を懸けた戦いになるのだった。 と、まあ、プロットは華々しいけれど、小説自体はイマイチだった。ヤクザを描かせたら、やはり北方謙三や黒川博行が一枚も二枚も上手だと思った次第。 横山秀夫といえば「半落ち」や「動機」に代表される警察小説というイメージだが、この「出口のない海」は戦争ものである。特攻兵器である人間魚雷「回天」に乗って敵艦に体当たりする若者の話だ。 主人公は、甲子園優勝投手でありながら、大学では肘を壊して鳴かず飛ばずの日々を送る青年並木浩二。チームの重荷でありながら、天性の楽観と忍耐、それに、チームの面々の友情に支えられて、楽しい野球生活を送っている。戦況厳しい折、大学生の強制徴兵も近いと噂される中、浩二は、最後になるかもしれない大会に向けて「魔球」を編み出す決心をする。しかし、戦争は彼の努力が実を結ぶのを待ってはくれなかった。 戦争と若者といえば、不朽の名作「永遠のゼロ」をボクは一番に挙げるが、それに準ずる名作である。死が「可能性」ではなく「絶対」であるという生き方、迷いながらも逃れられぬその運命に、若者はどう立ち向かっていくのか、悲しいけれども爽やかな、心に沁みる一冊であった。
by osampo002
| 2010-09-11 10:44
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