2009/12/20 SUN(No.2451)


機体





 関西への行き帰りで本を5冊も読んだ。空港まではどちらもバスだし、そのバスの便数が極端に少ないと来ているから、待ち時間がたくさんあるのだ。もちろん、バスの中でも機内でも、本を読むぐらいしかすることがない。
 バッグに入れておいたのは、藤原伊織の「シリウスの道(下)」、「てのひらの闇」、「ダナエ」の3冊。「シリウスの道(上)」が非常に面白かったので、同じ作家の本を買い込んであったのだ。
 1995年、「テロリストのパラソル」で江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞した藤原伊織は、その後も7年間、電通の社員としてサラリーマンと作家という二足のわらじを履き続け、2002年になってようやく作家に専念する身分に落ち着いたものの、さあこれからという5年後、食道癌のため59歳の若さで夭折した。サラリーマンを主人公にしたサスペンスものに定評がある。
 「シリウスの道」は広告会社が舞台。3人の幼馴染が抱える秘密を横軸、18億円の広告コンペを縦軸に、緊迫したストーリーが展開する。一般人には知られていない広告業界の内幕が興味をそそるし、錯綜したストーリーが収束していく過程にも興奮させられる。いわゆる謎解きの趣向もあるにはあるが、それは大して重要な要素ではなく、仕事に全力を傾ける人々の姿や、人間の強さ、弱さ、そういった描写や人物設定が読ませどころとなっている。文章も上手い。処女作「ダックスフントのワープ」が、主として純文学に贈られるすばる文学賞を受賞していることからも察せられるように、書く力においても群を抜いた作家なのである。
 「てのひらの闇」の主人公は大手飲料会社の宣伝部課長堀江。会長の石崎から、偶然写したという人命救助場面のビデオを渡され、それをコマーシャルに使えないかと相談される。しかし、そのビデオはCG合成であった。それを見抜いた堀江は、石崎に断りの返答を述べる。「感謝する」という言葉を残して、その夜、石崎は自殺してしまうのである。偽のビデオがなぜ作られたのか、それに関わる人々は、どんな動機で巻き込まれることになったのか、堀江は、過去に受けた石崎からの恩義に報いるため、その謎に迫ろうとする。ぐいぐいと引っ張りこまれるように読まされてしまう小説である。
 「ダナエ」は3篇の作品を収めた短編集。著者は、生存中に12冊の本を出版しているが、この短編集が生存中最後の出版となった(死後に3冊出ている)。「ダナエ」の主人公は画家、「まぼろしの虹」の主人公はCM制作プロダクションのアシスタントディレクター、「水母」はフリーのCMディレクターである。短編ながら、いずれも読ませるストーリーだ。
 読む本がなくなったので、伊丹で1冊、羽田で1冊買い足した。荻原浩の「あの日にドライブ」は、ちょっとしんみりするような秀作。この著者の作品は、このメルマガでも紹介したことがある「なかよし小鳩組」や「神様から一言」のようなユーモアの味付けがある小説が一つの特徴になっている観があるが、この小説は真面目。ひょんなことから上司に楯ついたために大手銀行を退職する羽目に陥った主人公は、今はタクシーの運転手に身をやつしている。銀行時代には下賤な職業としてバカにしていたドライバーという仕事に馴染めず、これまでの人生を振り返ることで、かろうじて自尊心を満たしている主人公。しかし、昔住んだことがある地域をたまたま通りかかったことがきっかけとなって、主人公に吹く風向きが変わり始める。曲がり角を左右どちらに曲がるかで決定づけられてきた過去の人生、それを懐かしみ惜しむだけの「今」が、徐々に変わっていく。身につまされるような、心にじんと響くような、味のある作品である。
 山本一力の「銀しゃり」は2007年の作。作者は2001年に「あかね雲」で直木賞を受賞して以来、ほとんど働きづめというぐらいの多作で鳴らしている。この「銀しゃり」の2007年にはエッセイ集など4冊を含む6冊(長編小説2冊)、翌年の2008年にはなんと9冊(長編7冊)も出版しているのである。いくらなんでも書きすぎ。確かに、ストーリー構成の巧みさや、江戸人情の語り口はさすがだが、いかんせん、底が浅い。練りに練ったという奥深さがないのである。赤川次郎並みに落ちぶれたというのがボクの感想。





藤原伊織「シリウスの道(上)

【キット評価:★★★★★




藤原伊織「シリウスの道(下)

【キット評価:★★★★★




藤原伊織「てのひらの闇

【キット評価:★★★★★




藤原伊織「ダナエ

【キット評価:★★★★☆




あの日にドライブ

【キット評価:★★★★☆




山本一力「銀しゃり

【キット評価:★★★☆☆

今日のプレミア版


右へ倣え



着陸機



展示作品:ダミー版「右へ倣え」
後出し版「着陸機」
エッセイ:2年ぶりの関西支部
今日のポイント:休載
ネット撮影会講評:休載
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by osampo002 | 2009-12-22 01:52 | 本を読もう!
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