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2009/12/12 SAT(No.2443)


冬の河原





 庄野潤三の「せきれい」を読んだ。大感激。当分の間、心の中に余韻が残りそうだ。
 庄野の著作は、地方誌に掲載されたエッセイなどを除けばすべて読んでいるから、1998年のこの作品も、もちろん再読になるわけだが、何度読んでも、読むたびに違う感動を味わう。まさに庄野が庄野たる所以であろう。
 彼の小説は、とにかく地味である。人となりも地味で、おそらく、日本文学史上もっとも地味な小説家ではなかろうか。小説には盛り上がりもなければ、筋立てもない。はらはらどきどきすることなど金輪際ないし、謎解きもなければ事件もない。淡々と、普通の市民の普通の生活が綴られているだけである。
 にも関わらず、ページをめくる手が休まることがない。普通の人の普通の幸福が、身に染みて伝わってくるからだ。じんわりと、心の底からわき上がってくるような幸せに浸ることができる。
 庄野潤三は、1954年、「プールサイド小景」で第32回芥川賞、1965年「夕べの雲」で読売文学賞、69年「紺野機業場」で芸術選奨文部大臣賞、71年「絵合せ」で野間文芸賞、72年「明夫と良二」で毎日出版文化賞、73年日本芸術院賞を受賞、78年日本芸術院会員。錚々たる受賞歴だが、たぶん、このメルマガの読者の大半は、名前すら知らないと思う。それほど地味なのだ。しかし、一冊でいいからこの作家の本を読めば、すっかり虜になるに違いない。
 非常に残念なことに、先々月、88歳で他界した。親友だった児童文学者阪田寛夫(童謡「さっちゃん」の作詞家)に3年前に先立たれ、ずいぶん気落ちしていたと伝え聞く。小説には、執筆当時に亡くなった、やはり親友の小沼丹のことが出てくる。彼の文章には悲しみを綴る描写は出てこないが、悲しみは文字の間からにじみ出てきて読者に伝わる。他人を愛し、思いやることが、普通にできる人であった。
 蛇足だが、実兄は児童文学者の庄野英二。代表作『星の牧場』(1963)で、産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞、日本児童文学者協会賞(いずれも1964年)を受賞。ほかにも、赤い鳥文学賞、巌谷小波文芸賞受賞を受けた作品もあり、弟潤三とも通じる、飾らない文章に味わいのある作家である。日本エッセイスト・クラブ賞を受けたエッセイ集「ロッテルダムの灯」は名作、ボクの大好きな本だ。また、実弟の元帝塚山学院大学学長庄野至も「足立さんの古い革鞄」で織田作之助賞を受賞している。





庄野潤三「せきれい」
(キット評価:★★★★★

今日のプレミア版


320枚の年賀状



展示作品:普及版「320枚の年賀状」
エッセイ:年賀状をやっと印刷した
今日のポイント:奥にあるものを隠す
ネット撮影会講評:休載
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by osampo002 | 2009-12-13 02:05 | 本を読もう!
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