2009/12/08 TUE(No.2439)


家路をたどる





 山本周五郎「柳橋物語/むかしも今も」を読んだ。「柳橋物語」が昭和21年、「むかしも今も」が昭和24年の作だ。ボクが23年の生まれだから、ちょうどその当時に書かれた作品であるわけだが、時代小説であるからまったく古さを感じない。2編とも昔、まだ20才台の頃に読んだことがある(講談社の山本周五郎全集全13巻を全部読んだ)が、久しぶりに読み返して、当時とはまた違った感動を与えられた。
 山本周五郎と言えば大河ドラマにもなった「樅ノ木は残った」などの士道ものや、「青べかものがたり」に代表される現代ものなど多数の著作があるが、あえてジャンル分けするならば、この2編のような江戸下町人情ものがやはり真髄だろう。古い日本人の倫理感を軸にして、市井の名もなき人々を主人公に、悲しく、また、爽やかな物語を語ってくれる。ぐいぐいと引き込むような筋立て、長く尾を引く爽快な読後感、いずれも巨匠ならではの筆力だ。
 「柳橋物語」の主人公は町娘のおせん。わずか17歳のときに口に出した「待っているわ」の一事が、その後の人生を大きく狂わせる。人々の人情に支えられながらも、何度も地獄に突き落とされるような悲しく辛い人生を送ることになるのである。しかし、最後におせんが辿りついた心境は、真実を守り通したものだけに与えられる勝利なのだ。読者にとっても、読み進むのが辛くなるほどの苦難の連続が、この最後の勝利によって報われる。非常に切なく、また、非常に爽やかな読後感が長く心に留まる作品である。
 「むかしも今も」の主人公は、グズでのろまな直吉。腹立たしくなるほどの愚直な生き方を描いた作品だ。ここにもやはり、下町の人情がはぐくむ涙の物語がある。愚弄されようが騙されようが、自分の生き方を変えることをしない直吉もまた、最後に勝利をつかみ取るのである。
 山本周五郎と言えば、受賞が決まった直木賞を辞退するなど、文学賞を受けるのを生涯拒み続けた作家である。「小説は賞のためにあるのではなく、読者のためにある」という考えに基づくこの生きざまは、粋や格好良さという見かけだけではなく、実際にその著作がすべてを語っている。この作家の著作は、日本人にとっての宝だと思う。





山本周五郎「柳橋物語/むかしも今も」
(キット評価:★★★★★

今日のプレミア版


夕まづめ



展示作品:普及版「夕まづめ」
エッセイ:痛風がまた出た
今日のポイント:ポイントに色を使う
ネット撮影会講評:休載
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by osampo002 | 2009-12-09 00:50 | 本を読もう!
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