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2009/09/09 WED (No.2349)


煌めくグラス




 節操もなく、定見もなく、とにかく、手当たり次第に、文字があれば読んでしまうというのがボクの読書スタイルである。当然ながらジャンルは問わない。新聞も隅から隅まで読む。興味も関心もない料理の記事まで読んでしまう。
 そういう人間を文字中毒と言うらしい。当たりである。だが、そういうボクにも、単に読むだけの楽しみではない、オタク的楽しみもある。当たりが出る作者を探す楽しみだ。
 ちょっと分かりにくい表現になってしまったが、こういう言い方が一番ぴったり来ると思う。ある本を読む。こりゃ傑作だと思う。すると、その作者の本を手当たり次第に手に入れて読む。2冊目で却下されることもあれば、3冊、4冊と数を重ねるたびにのめりこんでいく作家もある。
 しかし、著作すべてを網羅しないと気が済まないという作家に巡り合うことは稀だ。ボクの場合で言えば、海外の作家では競馬シリーズのディック・フランシスただ一人だし、日本人の作家なら庄野潤三と藤沢周平しかいない。7割方、8割方なら読んだという作家はかなりの数があるが、あえて全作網羅まで踏み込んでいないのは、道半ばでモチベーションが途切れるからだ。飽きが来るのである。
 わずか3人だけれど、こういう、大好き作家に巡り合えるのも、手当たり次第方式の特権だと思う。大きく広く網を打って、お宝が引っかかるのを待つわけだ。今日、ひょっとしたら、そのお宝たりうるのではないかという作家に巡り合った。まだ一冊だけだが、こいつはひょっとしたらひょっとする。
 今まで、名前すら聞いたことがなかった作家だ。石田依良(いら)という。なんでも来い!のWikipediaすら、まだカバーしていないというから、マイナーもマイナー、知らんわけだ。
 ところが、この作家の処女作「池袋ウェストゲートパーク」にはぶっ飛んだ。発掘人のりおくんが小判を掘り当てたって、こんなに驚きはしないだろう。1997年にオール読物推理小説新人賞を受賞した作品である。その後、ちゃんと直木賞も取っているから、名前を知らなかったボクがアホなのだが、処女作にしてこの水準、末恐ろしい作家と言えるだろう。
 池袋西口公園、あの東京芸術劇場の前の広場に夜な夜なたむろするゾクグループが主題である。地元の工業高校、入学生の三分の一が途中退学になるというワル高校を卒業した真島誠が主人公の、ミステリー、青春小説、クライムノベル、風俗小説の混淆である。街で見かけても絶対に関わりたくないワルガキどもの世界が舞台だが、その世界を色鮮やかに、嫌悪感半分の魅力に満ちた世界として描く。素晴らしい筆力だ。
 スタイルは連作小説。援助交際の少女が連続して襲われる事件、暴力団組長の娘が失踪する事件、覚醒剤密売組織を壊滅させる事件、ゾクグループ同士の抗争を終結に導く事件の4つのストーリーに主人公が関わる。その主人公の性格設定がいい。友人たちも魅力的だ。
 なにより、作者の筆がいい。ボクみたいな、謹厳実直を絵に描いたように人間にすら、このアホガキどもの世界を素敵なものとして見せてくれる。ミステリーとしての構築力も見事である。この「ウェストゲートパーク」シリーズは、その後8作まで書き続けられている。途中で飽きるかも知れないから、とりあえず2、3、4冊目をネットで注文した。次を読むのが待ちきれない作家に出会って、ちょっと興奮気味のキットくんなのである。


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(キット評価:★★★★★)



今日のプレミア版


天然五穀米作り



展示作品:
通常版「天然五穀米作り」
エッセイ:コメ作りを舐めるなよ
今日のポイント:休載
ネット撮影会講評:ナンさんの作品
「防備万全」

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by osampo002 | 2009-09-10 02:44 | 本を読もう!
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